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京都地方裁判所 昭和53年(ワ)1371号 判決 1981年3月16日

原告

草分照雄

被告

都タクシー株式会社

主文

被告らは原告に対し各自金四〇万一八六五円及び内金三六万一八六五円に対する昭和五一年五月二三日から、内金四万円に対する同五六年三月一七日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その九を原告の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告らは原告に対し各自一〇一九万六一一一九円及び内九〇九万六一一九円に対する昭和五一年五月二三日から、内一一〇万円に対する昭和五三年一一月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  鈴木益次郎運転被告都タクシー株式会社所有のタクシーは昭和五一年五月二三日午後五時四〇分頃原告を客として乗せて京都府向日市寺戸町久々相九番地先の府道三差路交差点に国鉄向日町駅前道路から北進して進入した際同府道を北進してきた被告魚島安俊運転の乗用車と衝突した。

2  原告は、右事故によりタクシー内部のベルト元締金具に後頭部を打ちつけて、頸椎捻挫、左後頭部打撲等の傷害を負い、昭和五一年五月二三日から同五三年一月二五日まで(実通院日数三〇四日)通院治療を受けて症状固定したが、平衡障害、大後頭三叉神経症候群、両耳感音性難聴、耳鳴症、両眼視神経炎、視力障害(左〇・四、右〇・五)等の自賠法施行令二条所定一二級相当の後遺症を残した。

3  被告魚島安俊及び鈴木益次郎は、事故現場付近が三差路で交通量も多くまた側方に対する見通しが悪かつたのにかかわらず前側方に対する注視義務を怠つた過失により本件事故を起したものであり、被告都タクシーは鈴木益次郎の使用者として同人が事業の執行につき原告に加えた損害を、また同人運転の車両の保有者として右損害を賠償すべき責任があり、被告魚島安俊はその運転車両の保有者として、また右過失による不法行為者として右損害を賠償すべき責任があり、かつ被告らは共同不法行為者であるから右損害を各自連帯して賠償すべき責任がある。

4  原告が本件事故により被つた損害の総額は一三八三万四二五四円であり、その内訳は次のとおりである。

(1) 逸失利益 原告の事故前三か月間の平均月収は二一万五〇〇〇円であり、事故日から症状固定日までの二〇か月間の休業損害は四三〇万円であり、年間所得二五八万円、稼働年数二三年間のホフマン係数一五・〇四五、労働能力喪失率〇・一四による得べかりし利益は五四三万四二五四円である。

(2) 慰藉料 三〇〇万円。

(3) 弁護士費用 一一〇万円。昭和五三年九月二六日着手金二〇万円を支払い、勝訴時に九〇万円支払う約束をした。

(4) 損益相殺 <1>自賠責保険より三四九万八一三五円、<2>原告勤務会社から一四万円を各受領したので、右(1)の休業損害に充当するとその差額は一〇一九万六一一九円である。

5  よつて、原告は被告らに対し本件事故による損害賠償として連帯して一〇一九万六一一九円及び内九〇九万六一一九円に対する昭和五一年五月二三日から、内一一〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年一一月二九日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告都タクシーの認否及び主張

1  請求原因1の事実のうち事故の態様を否認しその余は認める。同2の事実は不知。同3のうち被告都タクシーが鈴木運転車両の保有者であることは認めその余は争う。同4の事実のうち(4)を認め、その余は知らない。

2  本件は低速の並進車間の軽度の接触事故であつて衝撃力は微弱であり原告主張の傷害の内容程度は重きに過ぎる。仮にそのような傷害があつたとしても原告の症状は愁訴を中心とする心因性のもので、かつ他原因によるものであり本件事故との間には相当因果関係はない。

また、被告都タクシーに責任があるとしても、道路の状況により原告の乗車する車両が右折し続ける状況にあつたし、原告は急停車に対処するだけの安全な姿勢を保持すべき注意義務があつたのに体をひねつて後部座席を向き不自然な姿勢をとつていたため傷害の発生に大きな影響を与えているから過失があり、被告都タクシーは免責されるか、そうでないとしても原告の過失割合は少くとも八割を下らない。

外力の強度からみれば原告の傷害のうちせいぜい事故後三か月以内のものが本件事故と相当因果関係あるにすぎない。

三  被告魚島安俊の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認める。同2の事実は不知。同3は争う。同4の事実のうち(4)を認め、その余は不知。

2  本件事故当時被告魚島車とその先行車との間隔は二ないし三メートルであり鈴木車が府道北行車線に入り込むにはその旨合図するか車の列が途切れるのを待つべきであるのにこれを怠り慢然と進入したため本件事故が起つたのであつて被告魚島には過失はない。

原告は昭和五一年一一月一日の深夜友人と酒場で飲酒していたことがありその際友人が他人に蹴り倒され原告もそのはずみでガードレールに背中を打ちつけたことがあつた。原告の現在の症状は右の際の衝撃によるものであつて本件事故との間には因果関係がない。

仮に、原告の傷害に対し被告魚島に責任があるとしても原告にも過失があるから過失相殺されるべきである。原告の過失内容については被告都タクシーの主張と同様である。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和五一年五月二三日午後五時四〇分頃京都府向日市寺戸町久々相九番地先の府道三差路において同府道を北進していた被告魚島安俊運転の車両と国鉄向日町駅前道路から北進し右府道北行車線に進入しようとした被告都タクシー所有鈴木益次郎運転のタクシーとが接触事故を起したこと、原告が右タクシーに客として乗つていたことは当事者間に争いがない。

二  右事実と成立に争いのない乙第一ないし第三〇号証、同第三七ないし第四二号証、証人鈴木益次郎の証言、原告、被告魚島安俊の各本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

鈴木益次郎運転のタクシーが原告ら五人の乗客(助手席に二人、後部座席に三人乗つており、原告は助手席の左端窓側に位置していた。)を乗せ国鉄向日町駅前広場から南北に通ずる府道向日町停車場線へ右折進入しようとして一時停止した際府道北行車線を左(南)方約二七メートルの地点から時速約二〇キロメートルで北進接近してくる被告魚島安俊所有運転車両及びその先行車、後続車が順次追随進行してくるのを認めたのであるが、折柄手前府道南行車線を右(北)方から南進してきていた車が徐行してくれたため北進する右魚島車もその前面に割り込ませてくれるものと早合点し漫然ローギヤーのまま低速度(時速約一〇キロメートル)で並進右折したため自車前部を魚島車に接触衝突させた。

被告魚島は右前方から接近し自己の走行する府道に進入しようとしている鈴木車を三ないし四メートル手前で認めたが被告魚島車とその先行車との間に割込む間隔が十分なかつたので魚島車の後へ割込んでくるものと即断し先行車に続いて減速することなく時速約二〇キロメートルのまま進行を継続したため魚島車の直前に割込んできた鈴木と接触し衝突した。

以上の事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、鈴木は被告魚島車の動向を十分注視し魚島車の前面に割込むのは無理であつたからこれを避けその通過をまつて府道へ進入すべきであつたのに状況判断を誤り魚島車が停車または徐行してその前面に割り込ませてくれるものと軽信していきなり府道北行車線に割り込み進入した重大な過失があり、また魚島は鈴木車が直前にまで徐行しながら接近し自車の前面に割込もうとしてきたのであるからその動静を十分注視して徐行または停止し接触を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り慢然鈴木車が直前で停止するものと軽信して徐行することなく従前の速度のまま進行を続けて鈴木車と接触させた軽度の過失がある。

被告都タクシーが鈴木運転車両の保有者であることは原告同被告間に争いがなく、右認定事実によると被告魚島が同被告運転車両の保有者であることが認められるから、被告らはそれぞれ自賠法三条により右事故に基づき原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  成立に争いのない甲第一号証の一、二、同第二、第三号証、同第四号証の一ないし三、同第五号証、同第六号証の一ないし七、同第七号証、同第九号証の一、二、乙第一五ないし第一八号証、同第三一ないし第三六号証、証人本田孔士、同中村一雄の各証言、鑑定人榊田喜三郎、同佐々木綱の各鑑定の結果、原告・被告魚島安俊の各本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

原告は、本件事故当時就労可能であつたが慢性胃炎、肺結核、慢性肝炎、糖尿病、低血圧症等多くの内科的疾患をかかえ耐久性を欠いていたところ、本件事故により衝撃度〇・六ないし一・四Gの強さの衝撃を受け、頸椎捻挫、左後頭部打撲の傷害を負いその後昭和五一年五月二三日から同五二年八月二五日まで(実治療日数二六四日)京都市南区唐橋羅城門町一〇番地医療法人同仁会九条病院に通院し、昭和五二年六月八日から同五三年一月一九日まで(実治療日数三四日)平衡障害、大後頭三叉神経症候群、両耳感音性難聴、耳鳴症の治療のため同市左京区聖護院川原町五四番地京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科に通院し、昭和五二年七月一八日から同五三年一月二五日まで(実治療日数六日)両眼視神経炎の疑いで右同病院眼科で治療を受けているが、本件事故に基づく傷害は遅くとも受傷後六か月で症状固定している。その後も原告には頸部脊椎症症状、自律神経失調症状が認められ勤労意欲の欠如と相まつてめまい、肩凝り、耳鳴り、四肢しびれ感等他覚所見を伴わない多彩な愁訴があり、平衡障害、両眼視神経炎等主として心因性とみられる後遺症を残している。

ところで、鈴木車は本件事故により左前バンバーに魚島車の塗料が僅かに付着した程度で実損はなく、魚島車は右フエンダーに修理費約二万二一六四円を要した凹損があつたのみで、原告と同じく鈴木車に合乗りしていた他の乗客及び運転手は軽傷又は無傷であり、魚島及びその同乗者には負傷者はなく前記程度の衝撃で原告のみが後記のとおりの治療を要する傷害を負うに至つたのは、同乗者として当時鈴木車が交差点に差しかかつていたのであるから車の進行状況に注意を払い急停車その他突発的に発生するかも知れない事態に伴う衝撃に対処し安全な姿勢を保つているべきであつたのに仲間と雑談するため助手席から体をひねつて横を向き不安定な姿勢をしていたことによるものであつて原告にも傷害程度を増大させたことについて過失がある。

また成立に争いのない乙第三九ないし第四二号証と前記各証拠によると、本件事故の約五か月後である昭和五一年一一月一日午後一〇時三〇分頃それまで行きつけの京都市南区唐橋堂の前町一三番地喜楽会館内酒場「さつま」で友人森岡満外一名と飲酒中森岡が相客の北川安雄と喧嘩を始め同店前略上で後から追つてきた北川から背中を蹴られた際森岡を右肩でささえていた原告も振り回されたようになりそのはずみで道路脇のガードレールに衝撃度約〇・六ないし〇・七Gの強度で背中を打ちつけたことがあり原告の前記症状は右衝突にも基因していることが認められる。

以上の事情は後記損害額を算定する上において考慮するのが相当である。

四  前記認定事実と成立に争いのない乙第四三号証及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  逸失利益 原告は本件事故当時生活保護法による生活、住宅及び医療扶助を受けていてその後現在に至るまで右扶助を継続受給していて本件事故により喪失した利益はない。原告は、京都プロスポーツ会議に勤務していて年間二五八万円の収入をえていた旨主張するけれども原告本人尋問の結果中右主張に添う部分は前記証拠と対比して直ちに採用することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。前記後遺症による労働能力の減退分は慰藉料の算定上考慮するのが相当である。

2  慰藉料 前記のとおりの本件事故の態様、被告らの過失の程度、原告の負傷の程度、治療経過、後遺症の内容程度、原告の過失程度、原告の病状回復への意欲、生活状況その他本件に顕われた一切の事情を斟酌すれば原告が本件事故について慰藉料として請求しうべき額は四〇〇万円をもつて相当と認める。

3  原告が本件事故による損害について自賠責保険より三四九万八一三五円、原告勤務会社から一四万円を各受領していることは当事者間に争いがないから、前記2の四〇〇万円からこれを控除するとその残額は三六万一八六五円になる。

4  原告が本件訴訟の遂行を弁護士に委任していることは記録上明らかであり訴訟の経過、認容額等を勘案すれば本件事故と相当因果関係ある損害として請求しうべき弁護士費用は四万円をもつて相当と認める。また、右損害に対する遅延損害金の起算日は判決言渡日の翌日である昭和五六年三月一七日とするのが相当である。

五  よつて、原告の本訴請求のうち被告らに対し各自四〇万一八六五円及び内三六万一八六五円に対する本件事故日である昭和五一年五月二三日から、内四万円に対する昭和五六年三月一七日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

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